竹内医師筆頭の論文がJ Comput Assist Tomogrにpublishされました

アンギオチーム(気管支動脈塞栓術)リーダーの竹内先生筆頭論文です。東海大学八王子病院放射線部との共同研究を行っています。

肺NTM症やアスペルギルス症では血痰、喀血の頻度が高く、止血剤内服を継続しても喀血を認める症例を多く経験します。

経験豊かな専門家なのでいつも安心してお願いしています。アンギオについては当院ホームページでも紹介していますのでご覧ください。

喀血・血管塞栓術外来

間質性肺炎診療に役立つ知識

Eur Respir J. 2020 Sep 17;2002718. doi: 10.1183/13993003.02718-2020.
Progressive fibrosing interstitial lung disease: a clinical cohort (the PROGRESS® study)

慢性線維化性間質性肺疾患の患者は、進行性線維化フェノタイプ(PF-ILD)に進展する可能性があるが、臨床試験以外でのこの集団の頻度と特徴についての情報が不足している。

リアルワールドの単一施設の臨床コホートにおいて、特発性肺線維症(IPF)以外のPF-ILD患者の特徴と転帰を評価した。成人の線維化ILDの連続全症例(2010–2017)のファイルを、事前に規定したHRCTで10%以上の線維化があり2年間の重複した期間中に進行がみられたとする基準を用いて後方視的に検討しました。ベースラインは、疾患の進行が確認された日として定義した。ニンテダニブまたはピルフェニドンを投与された患者は、生存および進行の分析から除外した。

合計で1,395人の患者がスクリーニングされ、617人はIPF以外のILDまたはCPFEであり、168人は進行性線維化フェノタイプであった。評価可能な患者165人の年齢中央値は61歳で 57%は女性であった。ベースラインの平均対予測努力肺活量(FVC)は74±22%であった。フォローアップ期間の中央値は46.2ヶ月であった。1年目の年間FVC低下は、線形混合モデルを使用して136±328 mLと推定された。全生存率は3年で83%、5年で72%であった。多変量Cox回帰分析を使用すると、過去24か月のFVCの相対的減少が10%以上(p <0.05)、50歳以上(p <0.01)、および診断サブグループ(p <0.01)が死亡率と有意な相関がみられた。

Figure 2. Linear mixed model estimation and 95% CI on raw FVC (mL) associated with means and 95% CI of FVC (%) at calculated time points

このコホートでは抗線維化療法を受けていないPF-ILDの患者は、肺機能の継続的な減少(死亡が予測される)を特徴とする経過をたどっていた。

コメント by 田中Dr

このコホートでは全身性硬化症が全症例の4分の1を占めていますが、日本の呼吸器内科でPF-ILD例の4分の1が全身性硬化症という施設はまずないのではないでしょうか。またIPFと比較して予後は良いのですがFVCが経年的に着実に減少していくため治療介入は重要と考えられます。

より良いNTM診療のために。治療期間について③ 古内先生筆頭論文紹介

そこで、今年CHESTにpublishされた当院データ(古内医師筆頭)になります。現在我々の考える最適な治療期間となります。将来、新規治療薬が開発され、結核のように12か月→9か月→6か月と短期治療レジメが開発されるまでは、いかに副作用を少なくして(耐性化させず)最大の治療効果を得るかという点が重要になります。延長治療となると患者負担、経済負担、AMRの視点からは外れているように思われるかもしれませんが、再発(再燃)率から考えれば十分に理解されるものと考えています。

肺MAC症の治療において、一旦治療を成功しても、終了後高頻度に再発が起きることが経験されます。米国や韓国からの菌の遺伝子解析により、再発のうち多くは異なる遺伝子型による再感染であることがわかっていますが、一方で25-50%は真の再燃であり、現在ガイドラインで推奨されている治療期間が不十分な患者群が存在する可能性が示唆されます。


結核治療では、有空洞症例や培養陰性化が遅い、など再発リスクが高い症例では治療期間延長が推奨されていますが、肺MAC症において、治療期間延長が再発率に与える影響は分かっていません。

複十字病院で、2006年~2017年の間に肺MAC症と診断され、ATS/IDSAの推奨する12カ月以上の標準治療を行い治療成功の基準を満たした154例を対象としました。再発率の解析については、培養陰性12カ月達成した後、さらに3カ月延長の効果を調べるため、培養陰性化後「≧15カ月群」および「<15カ月群」の2群に分けて解析しました。

結果:<15カ月群が44例(28.6%)、≧15カ月群が110例(71.4%)でした。中央値 40.9カ月の観察期間中に59例(38.3%)が再発しました。<15カ月群(24/44例, 54.5%)の再発率は≥15カ月群(35/110, 31.8%)より有意に高く(P=0.011)、Kaplan-Meier曲線でも有意差を認めました(Figure 1A)。多変量解析では、「培養陰性化後の治療期間<15カ月」に加えて、「治療終了時の空洞病変」と「気管支拡張所見の程度」が独立した再発のリスク因子でした。


治療期間について、さらに<12カ月、12-15カ月、15-18カ月、18-24カ月、>24カ月の5群に分けて解析しましたが、15-18カ月より治療延長した群においてさらなる再発率低下は示されませんでした(Figure 1B)。陰性化後15カ月未満の治療を受けた患者は有意に再発率が高く、ガイドライン推奨の治療期間が不十分な患者群が存在することが示唆されました。


今回、再発のリスク因子として同定された「治療終了時の空洞病変」、「気管支拡張所見の程度」は、治療延長を考慮する指標としてよいかもしれません。
15-18カ月群から、さらなる治療延長の効果はみられず(長ければ長い程よいというわけでもない)、上記リスク因子のある患者に対して「培養陰性化後15-18カ月」は一つの目安となるかもしれません。 

Clinical Infectious Disease(CID)に肺MAC症治療における副作用管理についてexpert panel surveyの結果がpublishされました。より良いNTM診療のために。

肺MAC症治療における副作用はとても大きな問題です。ガイドラインはこのようなテーマは触れにくいところだと思われます。ガイドラインメンバーとNTM-NETの混成で行ったsurveyのまとめになります。

おおよそ意見が一致しているのですが、参加した私も作成過程でのやりとりで、立ち位置を確認するのに役立ったと感じています。Practiceの改善に繋がることを期待します。

エサンブトールの副作用について、以前日本で問題になっているのだと米国の医師何人かに話したことがありましたが、その時に「何で?」という反応が返ってきたことに驚きました。EBの週3回療法を当然のように行っていた人たちですので当然だったのかもしれません(私が聞いた相手は全てステートメントのメンバーなのでpracticeもできている人たちというバイアスがあります)。私はそれまで日本人には週3回療法はなじまないだろうという考え(先入観)を持っていたため、しまった、と感じたことを憶えています。

オープンなのでご一読ください。

結核副センター長の奥村先生による筆頭論文紹介

以前紹介しました、副センター長奥村先生による、筆頭論文の紹介です。

当院は厚労省の指定する、多剤耐性結核診療の高度専門施設です。

多剤耐性結核に対して新規抗結核薬デラマニドが使用できるようになった2014年から同じく新規抗結核薬が使用できるようになった2018年までの31例を解析しました。

男性が21例で平均年齢48歳、女性が10例で37歳で検討しました。

既存の抗結核薬に加えて本邦では抗結核薬として認められていないリネゾリドを19例に使用しています。

31例中2例に心電図上QTc延長が認められましたが、中断することなく使用を継続することが可能でした。

結果

4例が副作用のために中断しました。1例が難治性気胸併発により死亡、1例が骨髄抑制の疑い、1例が多剤併用療法による服薬困難にて、もう1例が手術をおこなった症例でやはり多剤併用療法の困難で薬剤を変更している間にデラマニド以外の複数の抗結核薬が耐性を獲得したため、今後のデレマニドの耐性化も予測されてたため中断しました。その他は治療中も含めて使用が可能であり、全例で観察期間中培養陰性化が得られました。

デラマニドは比較的副作用もなく使用できる薬剤であるが、多剤併用療法によって困難な場合もある。新たなデラマニド耐性をつくらないように注意しながら使用する必要があると結論づけています。

画像所見から 6-④ 診断は「壊疽性膿皮症」

そして突然確定診断ですが「壊疽性膿皮症」でした。解説スライドを添付します。

そして臨床経過としては、壊疽性膿皮症治療導入によって改善していきました(皮膚科専門にて行われています)。ご覧のように腫瘤陰影は縮小してきています!。

一度みると忘れられませんね!

結核センター長の吉山医師筆頭の論文がClinical Infectious Diseaseにpublishされました。

研究所でWhole Genome Sequenceを行って変異とDSTを確認しています。

最近は、bedaquiline、delamanidとLinezolidのおかげでMDR-TBの手術例は殆どなくなりました。

2008年に複十字にきてからしばらくMDR-TBのクラスターと思われる症例が入院されていましたが最近は殆ど見なくなりました。耐性例のアウトブレークだけは避けないといけませんね。

後日内容を解析して頂きます!

より良いNTM診療のために。ATS/ERS/ECSMID/IDSA Clinical Practice Guideline について 治療期間について③

IX: マクロライド感受性肺MAC症患者では、培養陰性後12ヶ月未満の治療をおこなうべきか、あるいは12ヶ月以上治療すべきか?

1.マクロライド感受性肺MAC症患者では、培養陰性から少なくとも12ヶ月の治療を行うことを支持する(条件付き推奨)。」

前回紹介しましたが、治療中や治療終了後の再排菌の約75%が再感染である、という報告は衝撃的でした。NTM症の疫学研究をしている私にとっては、再感染を予防するために環境因子の解析の重要性を強く感じました。

一方で、我々は再燃が25%あることにも注目しました。なぜかというと、結核では、再燃リスクの高い症例には3か月の治療を行っているのですから、肺MAC症でも再発(再燃)リスクが高い群があり、治療期間を延長したほうがそれを抑えられるのではないか、という仮説です。

「結核医療の基準」の改訂

また、CAM800mgへの増量に伴う市販後調査によって、陰性化15か月以下の症例で再発が認められたと報告されました。J Infect Chemothepy. 2017 May;23(5):293-300. doi: 10.1016/j.jiac.2017.01.007.

以上から、治療延長と再発リスクについて検討することにしました。

画像所見から 6-③ 診断は?

ちょっと間が空いてしまってすみません。過去の投稿で右側のカテゴリーから「画像所見」をクリックして連続でみてください。連続で①から順にみてください。

慢性の経過で診断がつかなかった(抗酸菌陰性、真菌陰性、悪性所見なし)症例です。何年も経過してから左肺におそらく同じ原因と思われる結節が出現したためVATS生検が行われました。

この症例の診断は、病理以前に術後のある合併症(厳密には原疾患による変化が出現)で診断がついたのです。

それは下の図になります。

何が起こったかというと、VATSの術後創部が潰瘍化したのです。

これで分かった方は皮膚科疾患に精通していると思います。

潰瘍性病変の病理所見は下記のとおりでした。

肺MAC症診断時のとアスペルギルス沈降抗体の意義ー論文解説ー

今回は2020年4月9日のブログでも取り上げた肺MAC症とアスペルギルス沈降抗体の論文を筆頭の白井先生(災害医療センター)が紹介します。

https://www.resmedjournal.com/article/S0954-6111(20)30095-0/fulltext

近年、慢性肺アスペルギルス症を合併する肺MAC症は増えてきており、予後が悪いことも分かってきました。そのため、早期に慢性肺アスペルギルス症の診断を行うことが大事になってきますが、両者の画像は似ていることも多く診断は難しいことがあります。そこでアスペルギルス沈降抗体が役立ちます。本研究では、診断ツールとして利用されているアスペルギルス沈降抗体の結果が肺MAC症患者の臨床アウトカムにどのような影響を与えているのかを後方視的に調べました。

以下、論文の内容になります。

複十字病院で過去に肺MAC症と診断された患者で、診断時にアスペルギルス沈降抗体を測定した131人を登録しました。この中で、20人(15.3%)が肺MAC症診断時にアスペルギルス沈降抗体陽性でした。抗体陽性例は男性(P = 0.013)、気腫肺(P < 0.001)、間質性肺炎(P = 0.025)の患者に多くみられました。4.0年の追跡期間中央値の間、肺アスペルギルス症を発症したのは、抗体陽性患者で12人(60.0%、慢性肺アスペルギルス症9人、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症3人)、抗体陰性患者で12人(10.8%、慢性肺アスペルギルス症12人)でした( P < 0.001)。さらに、このなかで肺MAC症診断時に肺アスペルギルス症を合併していた症例を除いて、累積発生率を調べてみると、抗体陽性群で有意に肺アスペルギルス症合併が高いことが分かりました(P<0.001)。また、抗体陰性患者と比べて、抗体陽性患者は有意に死亡率が高いことが分かりました( P = 0.004)。多変量解析でも、高齢、低アルブミン血症、線維空洞 or 線維空洞・結節気管支拡張型の所見に加えて、アスペルギルス沈降抗体陽性が予後不良因子でした。

アスペルギルス沈降抗体は、アスペルギルスが定着ないし臨床的には肺アスペルギルス症を診断出来ない状態でも陽性になるものと考えます。つまりはアスペルギルスが定着し、やがては肺アスペルギルス症発症に至る疾患スペクトラムにおいて、発症の前段階まで拾っている(拾うことが出来ている)のだと思います。

この研究のみで言えることではないですが、将来的にはアスペルギルス抗体陽性の肺MAC症に対して予防的な抗真菌薬が検討されてくるのかもしれません。