肺MAC症の新規診断症例における抗GPL-core IgA抗体の臨床的有用性 について

筆頭著者の松田先生による、「Clinical significance of anti-glycopeptidolipid-core IgA antibodies in patients newly diagnosed with Mycobacterium avium complex lung disease: 肺MAC症の新規診断症例における抗GPL-core IgA抗体の臨床的有用性」Respir Med. 2020 Sep;171:106086. doi: 10.1016/j.rmed.2020.106086.の解説です。松田先生らしい、きっちりした解説です。

【背景・目的】

肺MAC症では、迅速な診断法、さらに治療開始を判断する方法の開発が必要です。抗GPL-core IgA抗体は、肺MAC症の診断に有用ですが、その感度は低いため、抗体陰性となる肺MAC症患者の要因を理解する必要があります。また、抗GPL-core IgA抗体が、肺MAC症の疾患進行を予測し、治療開始の判断基準となるかは不明です。

本研究の目的は、抗GPL-core IgA抗体陰性肺MAC症患者の臨床的背景を明らかにする事、そして抗GPL-core IgA抗体と肺MAC症の進行との関連を明らかにする事です。

【方法】

  • デザイン:後ろ向き観察研究
  • 期間:2013年4月~2015年3月の2年間
  • 施設:複十字病院,慶応大学病院
  • 選択基準:2007年ATS/IDSA statementに従い、抗酸菌培養検査により肺MAC症と診断

かつクラリスロマイシンを含む多剤併用治療歴のない患者

  • 抗GPL-core IgA抗体価:Capilia MAC抗体(commercial ELISA kit)で測定、cut-off = 0.7 U/ml
  • アウトカム:

① 抗GPL-core IgA抗体の陽性群、陰性群で患者背景、抗酸菌培養、画像所見を比較し、抗体陰性患者のリスク因子を検討

② 2017年12月まで全患者の治療開始時期を追跡し、抗GPL-core IgA抗体の結果が、肺MAC症の治療開始(=治療必要な悪化)と関連するかを検討

【結果】

① 患者背景(本文Table 1)

  • 年齢中央値71歳、女性70%、非喫煙者68%、抗GPL-core IgA抗体陰性36%
  • 肺基礎疾患(①陳旧性肺結核 ②COPD ③肺癌)(全体の25%)⇒陰性群で多い
  • 副鼻腔炎(全体の10%)⇒陰性群で多い傾向
  • 悪性腫瘍(肺癌以外)(全体の9%)⇒陰性群で多い
  • クラリスロマイシン単剤治療歴(全体の7%)⇒陰性群で多い傾向
  • 喀痰検査による診断(全体の92%)⇒陰性群で少ない
  • 結節気管支拡張型(全体の81%)⇒陰性群で少ない
  • 空洞病変あり(全体の30%)⇒陽性群、陰性群で差なし
  • 画像所見の重症度(NICEスコア: 備考欄参照)は陰性群より陽性群で高く、また抗体価と相関する

(下図・本文Figure 2およびSupplementary Figure S1)

② 肺MAC症患者の抗GPL-core IgA抗体陰性の要因(下図・本文Table 3)

  • 多変量解析の結果より、抗体陰性患者のリスク因子は以下の4つ

⇒ 肺基礎疾患あり、副鼻腔炎あり、クラリスロマイシン単剤治療歴あり、NICEスコア低値

③ 肺MAC症の治療開始(=治療必要な悪化)と関連する要因(下図・本文Table 2)

  • 追跡期間中央値364日で、治療開始されたのは114人(全体の49.8%)
  • Cox比例ハザードモデルによる多変量解析から、治療必要な悪化のリスク因子は以下の4つ

⇒ 空洞病変あり、若年者、悪性腫瘍(肺癌以外)なし、および抗GPL-core IgA抗体陽性

  • 抗GPL-core IgA抗体陽性・陰性および抗体価の、治療必要な悪化への累積寄与率の違い

(下図・本文Supplementary Figure S2)

【考察】

  • 肺MAC症患者の抗GPL-core IgA抗体陰性の要因に関して
  • (ⅰ) 既報[1]の単変量解析で抗GPL-core IgA抗体陰性に関連する因子は、喀痰塗抹陰性、気管支洗浄液での診断、病変範囲が軽微

(ⅱ) 本研究の多変量解析で抗体陰性と関連したNICEスコアは、既報[2]で排菌量とも相関

⇒ 抗GPL-core IgA抗体陰性は、画像所見と排菌量が軽症の肺MAC症患者を反映

  • 肺基礎疾患や副鼻腔炎の合併患者では、肺構造破壊による易感染性、下気道での細菌に対するIgAの分泌低下[既報3,4]、粘液繊毛クリアランス障害[既報5,6]が存在

⇒ 抗GPL-core IgA抗体陰性は、肺基礎疾患や副鼻腔炎の合併患者の、MAC菌に対する免疫応答低下を示唆

  • 肺MAC症の治療開始(=治療必要な悪化)と関連する要因に関して
  • 本研究の結果および既報[7,8]より、結節気管支拡張型・線維空洞型といった画像所見に関わらず、空洞病変ありは肺MAC症の治療必要な悪化の強いリスク因子
  • 抗GPL-core IgA抗体陽性は、画像重症度スコア(NICEスコア)のうち、consolidationと気管支拡張の病変スコアの増加と関連する一方、空洞病変のスコアは抗体陽性・陰性で差は無い

(下図・本文Supplementary Figure S3)

⇒ 抗GPL-core IgA抗体陽性は、結節気管支拡張型の患者、特に空洞病変の無い患者の、治療必要な悪化を判断する新たな指標となる可能性

【limitation】

  • 治療開始のタイミングが主治医判断、治療開始された患者の割合は既報[7,8]と同等
  • 全症例で胸部CTの画像所見が評価されていない、21人(9%)は胸部X線のみの評価
  • M. aviumM. intracellulareを区別していない

【結論】

肺MAC症新規診断患者の3分の1が抗GPL-core IgA抗体陰性であり、肺基礎疾患や副鼻腔炎の存在、クラリスロマイシン単剤治療歴、軽症例で注意を要します。また、抗GPL-core IgA抗体陽性は、空洞病変に加え、治療必要な悪化を予測する因子でした。

【Reference】

1. S. Kitada, et al. Int. J. Tubercul. Lung Dis. 2015; 19: 97-103.

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3. L. Millares, et al. Respir Res 2012; 13: 113.

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5. M.R. Loebinger, et al. Thorax 2009; 64: 1096-101.

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8. J.A. Hwang, et al. Eur Respir J 2017; 49: 1600537.

【備考】

・画像所見の重症度スコア(NICE scoring system)の方法に関して(下図)