吉山先生による筆頭論文の紹介です

CIDに報告された、ベダキリン、デラマニド同時耐性例の報告です。下記のMDR-TBの治療経過を違和感なく頭の中で把握するのは大変だと思います。しかし、経過、副作用歴、同時併用薬、感受性検査の変化などを頭に入れておかないと容易に間違った治療をしてしまうのが結核治療の難しいところです。

症例報告です。2019年の再排菌時の結核菌が、ベダキリン、デラマニド両剤耐性であった例です。 

症例は両剤耐性時50歳台であった男性です。2015年に複十字病院初診。培養陽性で他院で慢性排菌であったため、複十字病院外科で左上葉切除を行いました。その際の薬剤感受性検査では、リファンピシンとレボフロキサシン耐性でしたが、そのほかの薬の感受性検査は不明でした。手術後培養陽性となることなく、エタンブトール、エチオナミド、サイクロセリンで治療し2017年治療終了。

しかし、2018年再排菌しており、この時点で、MGITを用いた感受性検査では、イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド耐性、エタンブトール、ストレプトマイシン感性。他の薬への感受性検査は不明でした。デラマニド、リネゾリド、カナマイシン、エチオナミド、クロファジミン、ピラジナミドで治療を開始し菌陰性化、その後、ピラジナミド耐性と判明してピラジナミド中止、ブロスミック法でエタンブトール耐性と判明してエタンブトール中止、ほかの薬の感受性は不明であったのですが、サイクロセリン再開。その後、有害事象でクロファジミン、リネゾリド中止しベダキリンを追加していたのですが、2019年一度培養陽性となりその時の菌が、ベダキリン、デラマニド耐性でした。

この時点で再入院、クロファジミンとリネゾリド再開、メロペネム点滴しオーグメンチンを併用しました。培養は1回の陽性のみでその後陰性化。CT画像は、2018年リネゾリド中止時から2019年再排菌時まであまり変わっていなかったのですが、リネゾリド、クロファジミン、メロペネム再使用開始後改善しました。ベダキリン、デラマニド感受性検査を後に検査したところ、2015年株、2018年株は感性ですが、2019年株は耐性でした。

耐性化例ではありますが、菌量が少なく、その後培養陽性になっていないので治療失敗したわけではありません。現在もまだ治療中で2019年以降1年3カ月以上培養陰性が続いています。また、この症例の珍しいところは、ゲノム解析をすると、2015年株―2018年株-2019年株と経時的にSNPの変異があるわけではなく、2015年株から2018年株と2019年株が枝分かれしているところにあります。2018年の再発時は、2018年株と変異前の2015年株の両方の菌株が同時に存在したものと推定されます。ある時点で結核菌は同一の菌のみが存在するわけではない、ということは、deep sequencingでも報告されていますが、本例の様に菌が複数回検出され、経過を知ることができる例からも推定されます。

3株で共通の薬剤感受性関連遺伝子変異:

rpoB_p.Val170Phe
inhA_p.Ile21Thr, ahpC_c.-52C>T
BDQ; insertions in Rv0678 (c.117_118dupGT)
DLM; insertions in fbiC (c.1325_1326dupCG)