論文紹介(藤原先生)

先日フライングしましたが、無事publishされたため、藤原先生に解説してもらいました。

Mycobacterium abscessus感染症の臨床的重要性はますます高まっています.しかし,現在のガイドラインで推奨されている標準的な治療レジメンは,しばしば好ましくない治療結果をもたらします.そこで我々は,新規テトラサイクリンであるオマダサイクリン(OMC)のMycobacterium abscessusに対するin vitro活性を調べ,新規治療オプションとしての可能性を検討しました.2005年1月から2014年5月までに40名の患者さんの喀痰から得られたMycobacterium abscessus subsp. abscessus(Mab)臨床株40株の薬剤感受性を調べました.OMC,アミカシン(AMK),クラリスロマイシン(CLR),クロファジミン(CLO),イミペネム(IPM),リファブチン(RFB),テジゾリド(TZD)単剤のMIC値およびOMCとの併用効果について,チェッカーボード法を用いて検討しました.さらに,Mabのコロニーモルフォタイプによる効果の違いについても検討しました.OMC単剤のMIC50 2μg/mL,MIC90 4μg/mLでした.OMCとAMK,CLR,CLO,IPM,RFB,TZDの組み合わせは,それぞれ17.5%,75.8%,25.0%,21.1%,76.9%,34.4%の菌株に対して相乗効果を示しました.また,OMCとCLO(47.1% vs 9.5%,P = 0.023)またはTZD(60.0% vs 12.5%,P = 0.009)との併用は,スムースモルフォタイプの菌株よりもラフモルフォタイプの菌株に対して有意に高い相乗効果を示しました.以上より,OMCとの相乗効果はRFBとで最も多く観察され,次いでCLR,TZD,CLO,IPM,AMKの順であることがわかりました.さらに,OMCはラフモルフォタイプのMab株に対してより効果的である傾向が見られました.

OMCとの相乗効果はもちろん重要かと思いますが,OMCと今回調査した6種類の抗菌薬との間に拮抗作用がなかったこともまた重要だと考えています.あくまでin vitroの結果にしか過ぎませんが,OMCがMycobacterium abscessus感染症治療に一般的に使用されている薬剤が使用できない場合の代替薬となり得るかもしれません.

また,ラフモルフォタイプの菌株に対して相乗効果をより示す傾向であったことは面白い点でした.議論の残るところではありますが,ラフモルフォタイプは肺Mycobacterium abscessus症の治療難治性に関連するとの報告があります.本研究により,OMCがラフモルフォタイプ株による難治性Mycobacterium abscessus感染症の治療成績を向上させる可能性が考えられました.

現在海外では肺アブセッサス症に対するオマダサイクリンの第2相試験が行われているようです(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04922554).どのような結果になるか待ち遠しいですね.