CHESTの気管支拡張症ガイドラインがPublishされました

大変個人的に苦労もありましたが、素晴らしいメンバーとご一緒できてよい経験となりました。特に研修医の時にNEJMの総説で勉強したのですが、その著者であるAlan Barker先生と個別の役割を分担したことも良い思い出となりました。

気管支拡張症の管理について、米国のCHESTと欧州のERSから発表された最新ガイドラインの違いと、CHESTガイドラインの特徴をご紹介します。

CHESTガイドラインの特徴
CHESTガイドラインは、喀血に対するトラネキサム酸の使用や、新薬であるbrensocatibの使用、さらに難治性の局所病変に対する外科的切除の考慮など、より具体的な臨床シナリオに踏み込んで言及している点が特徴です。また、既存の研究エビデンスの限界を非常に慎重に評価しており、示されている13の推奨事項すべてが「条件付き推奨」となっているのも大きなポイントです。

ERSガイドラインとの決定的な違い
2つのガイドラインの最大の違いは、「緑膿菌の初回検出時の除菌治療」に対するスタンスです。ERSガイドラインが除菌治療を条件付きで推奨しているのに対し、CHESTガイドラインは「エビデンス不十分」として特定の推奨を行っていません。

さらに推奨の強さにも違いがあります。ERSガイドラインは、長期マクロライド療法や気道クリアランスに対して「強い推奨」を出していますが、CHESTガイドラインは患者さんの治療負担や費用などを考慮し、これらについても「条件付き推奨」に留めています。エビデンスレベルを重視していることがよくわかると思います

どちらのガイドラインも、最終的には患者さん一人ひとりの状態に合わせた「個別化されたアプローチ」と「共有意思決定(SDM)」の重要性を強調しています。

https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(26)06180-5/fulltext?dgcid=raven_jbs_aip_email

展開の早い気管支拡張症の分野では、臨床に即した包括的なERSのガイドラインも柱の一つとなりますが、CHESTの方式を高率良く行い現場に早く届けられるようになると良いな、と感じました。

日韓台のプロジェクトの結果「NTM症の進行を予測する新たな血液バイオマーカー「sPD-1」」がArchivos de BronconeumologíaにPublishされました。

NTM症で最も多い結節・気管支拡張(NB)型は、進行が緩やかな一方、いつ悪化するかを予測することが難しく、治療開始の適切なタイミングを見極めることが課題となっています。

台湾・日本・韓国の国際共同研究は、血液中の「sPD-1(可溶性PD-1)」という免疫の働きに関わるタンパク質が、この予測に役立つ可能性を示しました。研究チームが400人のNB型NTM症患者を調査した結果、健康な人と比べて患者はsPD-1の値が低いことが分かりました。

さらに、患者の中でもsPD-1の値が特に低い人は、肺に「空洞」ができやすい傾向があり、1〜3年以内に病状が悪化して抗菌薬による治療が必要になるリスクが有意に高いことが明らかになりました。

この研究により、採血によるsPD-1の測定が、将来悪化しやすい患者を早期に見つけ出し、慎重なモニタリングや早期治療へとつなげるためのバイオマーカーとして役立つことが期待されます

https://authors.elsevier.com/c/1nRN014HoWVDFX

世界が連携して挑むNTM研究 ― e-ASIA国際共同研究の第一歩

https://www.medrxiv.org/content/10.64898/2026.06.27.26356627v1

e-ASIA共同研究プロジェクトの最初の成果が、プレプリントとして公開されました。

今回の論文では、日本、米国、オーストラリア、タイ、カンボジアの研究者が協力し、それぞれの国における非結核性抗酸菌(NTM)肺感染症の発生動向を比較・解析しています。

NTM症は世界各国で患者数が増加している一方で、その背景には地域ごとの環境や気候、生活様式、医療体制など、さまざまな要因が関係していると考えられています。そのため、一国だけの研究では十分に解明できない課題が多く、国際的な連携が不可欠な疾患です。

現在、私たちは日本、米国、オーストラリア、タイ、カンボジアの研究者とともに、NTMに関する国際共同研究を推進しています。

今回の成果はその第一歩に過ぎません。今後はさらに研究を発展させ、気候変動や異常気象、豪雨や洪水などの自然災害がNTM症の発生や流行にどのような影響を及ぼすのかについても明らかにしていく予定です。

地球環境が大きく変化する時代において、感染症研究も国境を越えた視点が求められています。世界各国の研究者と力を合わせながら、NTM症の予防や早期発見、より良い診療につながるエビデンスを発信していきたいと考えています。

今後の研究の進展についても、引き続きご紹介していきます。

気管支拡張症・NTM症の包括的診断アルゴリズム

今回、気管支拡張症の診断アルゴリズムを提案しています。

一方で、これまで長年にわたりNTM症の診療に注力しきた本邦においては、BEに限定した診断アルゴリズムに対して、多少の違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。

長くNTM症を中心に診療してきた立場から、気管支拡張症全体へ一気に視点を切り替えることが容易ではないのは、当然のことだと思います。

今回提示する修正版は、NTM症だけでなく、気管支拡張症の背景疾患や併存病態を幅広く評価し、実地臨床で総合的に活用できることを目指したものです。

日常診療の中で、患者さん一人ひとりの病態を整理し、必要な検査や専門的評価につなげるための実践的なツールとして活用していただければと思います。

「特発性NTM症」という言葉は、私自身、できるだけ使用しないように心がけてきた表現です。NTM症の発症には何らかの宿主要因が関与していることは明らかであり、とりわけ日本では、こうした宿主要因に着目した診療と研究をさらに進めていくことが重要だと考えています。

この患者群には、少なくとも二つの病態が含まれている可能性があります。一つは、もともと存在していた特発性気管支拡張症にNTMが感染した病態です。もう一つは、NTM感染が端緒となり、その経過の中で気管支拡張症が明らかになった、あるいは形成・進展したと考えられる病態です。

実際には、この二つを明確に区別することが難しい症例も少なくありません。だからこそ、「NTM症」と「気管支拡張症」を別々の疾患として捉えるのではなく、宿主背景、気道構造、感染、炎症の相互関係を総合的に評価する視点が必要だと思います。