雑誌:呼吸器内科の「呼吸器疾患における医療機関連携」という特集に「呼吸器専門医との連携3)多職種連携と障害サポート」というタイトルで総説を執筆しました。北野病院の大倉千明先生との共著です。

【増加傾向にある肺NTM症:多職種連携と生涯にわたるサポートの重要性】

近年、肺非結核性抗酸菌症(NTM症)の罹患率が日本で急増しています。2007年に人口10万人あたり5.7人だった発症率は、2017年には19.2人へと、わずか10年間で急激に増加しました。この慢性疾患は、診断が遅れるとしばしば肺破壊が進行するため、可能な限り早期の診断および適切なフォローと治療開始が、患者の予後とQOL改善に直結します。

もはや呼吸器専門医のみで対応する疾患ではなくなっており、プライマリケア医と専門医との連携が不可欠です。重症例(空洞を伴う、マクロライド耐性など)は専門施設へ紹介し、安定した軽症例はプライマリケア医が継続フォローを担う循環が推奨されます。

治療期間中の患者の負担は大きく、多職種チーム(MDT)による包括的ケアが極めて有用です。医師のほか、薬剤師、看護師に加え、理学療法士による気道クリアランス指導や、管理栄養士による栄養状態の改善は特に重要です。また、難治例や高齢患者に対しては、積極的治療から症状緩和へと移行する緩和的アプローチも、チーム全体で検討が必要です。肺NTM症は長期にわたり患者を苦しめる可能性が高いため、医療連携の重要性は今後ますます高まると考えられます。

日刊スポーツから複十字病院の医師4名が取材を受け、「肺を守ろう」という全30回の連載コラム記事となりました。

・呼吸ケアリハビリセンター 副センター長 菅原玲子先生
・治験管理室長/臨床研究科長/臨床医学研修科長 森本耕三先生
・呼吸不全管理センター長/睡眠時無呼吸症候群治療センター長 木村弘先生
・呼吸ケアリハビリセンター長 吉田直之先生

Yahoo ニュースにも掲載されていましたが、今はリンクが外れているようです。

PDFも著者権から添付できませんが、、、

ワールドシリーズに重なっていて、大谷と勝手に共演を果たせました笑

初期研修医のための呼吸器教室 臨床呼吸器教育研究会CREATEオータムセミナー2025が開催されました。

参加登録者は482名にも上ったとのことです。

1日で呼吸器疾患全般を学べる貴重な会となり、毎年参加者が増えています。

来年もこの時期に開催される予定です。

「呼吸器内科を面白く、分かりやすく!」

CREATE(クリエイト:臨床呼吸器教育研究会)は,臨床呼吸器の教育に取り組むグループです。年に1回のオンライン呼吸器セミナーを行っています。若手医師に呼吸器内科の面白さや魅力を伝えることを目的に活動しています。

私は2022年から世話人として参加させて頂いています。

Consensus on Management of Refracotry Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary DiseaseがERJにpublishされました。

陰性化の得られない症例のマネージメントについては問題が山積しています。

大変なプロジェクトでしたが、1stのDiana Moreira-Sousa先生やLastのRaquel Duarte先生らはよくここまでまとめたと思います。

こちらのステートメントが今後の議論の土台となり、より良いNTMマネージメントに繋がればと期待します。

第 188 回日本結核・非結核性抗酸菌症学会関東支部学会第 266 回日本呼吸器学会関東地方会 合同学会が開催されました。

ずっと慌ただしく過ごしているうちに、気がつけばかなりの日が経ってしまいました。
今さらではありますが、先日の地方会について、写真とともに記録しておきたいと思います。

今回の学会では、座長の先生方を次のような基準でお願いしました。
まず、2演題以上の発表を出してくださった施設の先生方。
そして、「教育的で熱心な先生」と評判のあった方(私の独自調査です)。
さらに、活躍が目覚ましい若手の先生方です。

中には面識のなかった先生もいらっしゃいましたが、お願いしたすべての先生から快くお引き受けいただき、本当にうれしく、感謝の気持ちでいっぱいでした。

研修にきていた竹内先生の発表(とても優秀な若手)

みんな知っている下田先生(日本で2番目に有名な呼吸器内科医笑)

尾形先生の座長(演者は東京病院の鈴木先生です)

慶應の八木先生の講演(大変勉強になりました)

風格がある、と言われていた藤原先生の座長

閉会の挨拶では、地方会昔話で、かつての会場だったエーザイホールの壇上の掲げられていた書「天助自助者(記憶では逆側から書かれていた)」のことを紹介しました。調べてみると、これは日本で初めてビタミンE製剤を開発し、エーザイを興された内藤豊次氏の座右の銘であり、イノベーションを重んじ、自ら独自の薬を開発していくという社風に繋がっていたことを知りました。それが近年のアルツハイマー病新薬の開発にも結実していると伺い、深い感銘を受けたこと。我々呼吸器分野においても、AIを含め大きな変化の時代にあって、学会として培ってきた文化と独自性を大切にしていく必要があると感じている、、というような話をさせて頂きました。

PCD診断における電子顕微鏡(EM)の有用性について、当院データをまとめた論文がRespiratory Investigationにpublishされました

研究所の宮林研究員が筆頭です。PCD外来の立ち上げからずっと一緒に取り組んでいます。

EMの評価などはとても大変ですが、診断には遺伝子と並んで不可欠とされています。

DRC1が約半数を占める日本においては、その有用性に限界があることも明らかにしました。

標準化された判定法と遺伝学的解析の併用が不可欠です。

https://doi.org/10.1016/j.resinv.2025.10.006

研究所の慶長先生らのグループとベトナムチームの共同研究”Genetic investigation of sinopulmonary diseases in Vietnam: seeking specific causes from non-specific symptoms”がOrphanet Journal of Rare Diseasesにpublishされました。

この研究は、ベトナム北部で慢性副鼻腔炎と痰を伴う慢性咳を訴える200名の患者を対象に、臨床像と遺伝的背景を解析したものです。
目的は、遺伝的に原因が特定できる疾患(CF, PCD, DPBなど)が、非特異的な上気道・下気道症状の背後にどの程度存在するかを明らかにすることでした。

1. 臨床的特徴

  • 平均年齢:49歳、女性が67.5%。
  • 気管支拡張症(BE)は約 44% に認められ、特に中葉・舌区に多い
  • 広範な気管支拡張または細気管支病変(BL/BE)をもつ症例は15.5%。
  • これらの患者は肺機能低下・BMI低下・CRP上昇があり、慢性炎症による栄養不良が示唆された。
  • 好酸球減少(<50/μL)は広範BL/BE群で有意に多く、重症化との関連が示唆された。

遺伝学的解析
▪ Cystic Fibrosis (CF)
1例で CFTR遺伝子の病的変異を2つ(p.Trp401Ter と p.Asp979Ala)発見。
長鎖リードシーケンスで両者が異なるアレル上に存在することを確認(複合ヘテロ接合)。
→ ベトナムにおけるまれなCFの確定例。

▪ Primary Ciliary Dyskinesia (PCD)
3例で病的変異を同定:
DNAAF11 (LRRC6): c.1A>G (p.Met1?)
RSPH1: c.365+1G>A, c.407_410del (p.Lys136MetfsTer6)
いずれも稀な型のPCD遺伝子変異であり、欧米で一般的なDNAH5やDNAI1変異は検出されなかった。

▪ WFDC2
新興の気道防御関連遺伝子だが、異常は検出されず。

▪ Diffuse Panbronchiolitis (DPB) 関連
MUC22 遺伝子(intron 2)のSNVが、広範BL/BE群で有意に多い。

これは日本のDPB患者でも報告されている多型で、アジア共通の遺伝的素因の可能性が示唆された。
HLA-DRB1*04:05 も対照群より高頻度
欧米で主流の変異(CFTR p.Phe508delなど)は検出されず、東南アジア特有の遺伝的背景が存在する。
DNAAF11やRSPH1など、アジア地域に特有なPCD原因遺伝子の関与が明らかとなった。
非特異的な慢性副鼻腔炎+咳嗽症状の背景に、遺伝性疾患が潜む可能性がある。
今後はベトナム国内での遺伝子診断体制の整備が必要とされる。

Respiratory Medicineに、ALISの検討を行った論文”Real-world effectiveness and Lung Abnormalities Associated with Amikacin Liposome Inhalation Suspension”がPublishされました。東邦大学との共同研究です。

当時当院で研修していた東邦大学の時田望先生が筆頭で、東邦大学との共同研究です。

東邦大学では卜部先生が専門外来を開設されており、NTM診療で重要な役割を担っています。

下記は時田先生からの論文紹介です。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0954611125004718

複十字病院と東邦大学医療センター大森病院にて、2021年8月から2023年9月の間にアミカシンリポソーム懸濁液(ALIS)を開始した難治性肺MAC症患者87例を対象として、ALISの有効性と有害事象を検討しています。

喀痰培養陰性化率は28.6%で、培養持続陽性を予測する因子はBMI<18.5 kg/m² (aOR 0.07, CI 0.02–0.35)、空洞の存在(aOR 0.02, 95% CI 0.002–0.18)であり、有意差はないものの培養陰性化群は治療開始からALIS導入時までの期間が短い傾向がありました(p=0.080)。空洞を有する患者の喀痰培養陰性化率が9.4%に対して、空洞を有さない患者は64.7%であり、難治性肺MAC症が進行する前の早期段階にALISを導入する必要があります。

一方、有害事象は嗄声が最も多く53.9%に出現していました。しかし嗄声が原因でALISが永続的に中止となった症例はなく、うがいや食前吸入、隔日吸入など適切に対処を行うことが重要です。

またALIS投与中に肺MAC症とは異なる新規陰影が出現することが多く、この新規陰影をALIS-related lung abnormalities (ALIS-RLA)と命名し検討しています。ALIS-RLAは82.1%に出現し、そのうち92.7%は無症状でした。呼吸困難などの症状がある場合はALISを中止する必要がありますが、無症状の場合はALISを継続しつつ症状が出現しないか注意深く観察する必要があります。

難治性肺MAC症の治療選択肢が限られている中、有害事象に対して適切に対処しALISを継続することが重要です。

DNAAF11遺伝子のヘテロ接合性大欠失とヘミ接合性ナンセンス変異により発症した原発性線毛運動不全症の症例報告がInternal Medicineにpublishされました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41062319/ 伊藤先生が筆頭です。

当院からは、貴重なPCD症例の報告を継続しています。

Intern Med 2025 Oct 9. doi: 10.2169/internalmedicine.6081-25

We present a 46-year-old patient with primary ciliary dyskinesia (PCD) caused by a large deletion spanning exons 5–11 of DNAAF11, accompanied by a hemizygous nonsense variant. The PICADAR score of the patient was 14, which was based
on the presence of heterotaxy, congenital heart disease, a history of neonatal respiratory distress, a history of neonatal intensive care unit admission, chronic sinusitis, and otitis media. Additionally, the nasal nitric oxide level of the patient was markedly low at 30.7 nL/min. These findings suggested that the clinical features of DNAAF11-related PCD are typical of PCD.