初学者のための びまん性肺疾患 / 間質性肺炎診療のコツ 第5回 びまん性肺疾患理解のための解剖 2

気管支は基本的に同じ径どうしの2分岐を繰り返して末梢に至りますが、2分岐のみでは特に中枢側では肺全体をカバーできないので側枝(娘枝ともいわれる)と呼ばれる細い気管支が分岐しています。

気管支の壁の構造は、中枢では軟骨が目立ちますが、末梢に至るにつれて徐々に軟骨は減少して平滑筋が増えていきます。径が2mm以下の気管支は細気管支と呼ばれ、壁には軟骨はみられません。細気管支の壁に肺胞がみられるものが呼吸細気管支で、その直前が終末細気管支です。呼吸細気管支は3分岐程度で肺胞道、肺胞嚢に至ります。わかれるといえばジョニー・デップは3回の離婚歴があるようですが、平均23分岐とされる気管支と比較すればまだまだです。

小葉(詳しくいうとMillerの2次小葉ですが、一般に「小葉」といえばMillerの2次小葉を指しており、ほかの小葉をいう場合には注釈がついていることが多いです。(「今や春風亭柳昇といえば、我が国ではわたし一人でございます。」で知られる柳昇は、はるか昔に亡くなって一人もいない状態になっています。)

小葉は小葉間隔壁に囲まれた0.5-3cm程度の構造です。小葉の中心には気管支と肺動脈が分布し、端(辺縁)には肺静脈、小葉間隔壁、胸膜が分布しています。加えて小葉より中枢側の気管支、肺動脈も小葉辺縁にみられます。つまり高分解能CTで肺内に確認できる正常構造は小葉中心部の肺動脈以外は小葉辺縁に位置していることになります。「あれ?小葉中心には気管支があるといったのにもう忘れたの?」という声が聞こえるような気がしますが、最近、私の物忘れが酷くなったから書き忘れたのではなく、小葉中心部では気管支はCTの分解能以下になっていてみえないため肺動脈のみが確認されるからです。

図1 小葉間隔壁に囲まれた(二次)小葉

Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2008 ; 3(2): 193–204.

図2 小葉の中心と辺縁 

中心にPA: 肺動脈 BR: 気管支 辺縁にPV: 肺静脈 ILS: 小葉間隔壁 矢印:小葉(細葉)中心

Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2008 ; 3(2): 193–204

小葉間隔壁は結合織からなる構造で肺の部位により発達している部分とそうでない部分があります。小葉間隔壁が発達していない部分は小葉の端がわかんないよ!どうすんの責任とってよ!という方。安心してください。静脈が代わりになるんです。小葉の端(辺縁)には肺静脈が分布しているといったじゃないですか。図2をみても小葉間隔壁と肺静脈がつながっていることがよくわかります。ちなみに小葉内に存在する静脈に囲まれた構造を細葉といいます。小葉内に細葉は3-5個程度存在するようです。

次回から画像

初学者のための びまん性肺疾患 / 間質性肺炎診療のコツ 第4回

田中先生の初学者のためのびまん肺解説シリーズです。間質性肺炎診療に役立つ知識の2シリーズを1週毎に発信しています!!

区域解剖学は伝統的に結核予防会から発信されてきた分野です。山下英秋先生の著書

肺区域解剖より見たX線読影図説〈第1〉正常編 (1956年) (結核選集〈第1集〉) - – 古書, 1956/1/1

近年では荒井 他嘉司先生の肺区域解剖と区域切除 -左上葉編- が有名です

びまん性肺疾患理解のための解剖 1

びまん性肺疾患の理解に病理、画像を避けては通れません。正常所見を知らなければ病理、画像所見の理解はおぼつかないので、今回は肺の正常構造についてお話しします。ちなみに清掃工場の仕組みがなかなか複雑であることを知らなくても困らないと思います。

https://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/shiro/shori/kanen/index.html

肺は臓側胸膜に包まれており、臓側胸膜は縦隔と肺の接点の肺門部で壁側胸膜に移行します。壁側胸膜は縦隔から胸壁内面を覆います。右肺は上中下の3葉、10区域、左肺は上下2葉、8区域からなっています。英語だと葉はlobe、区域はsegmentです。ちなみにlobeをWeb辞書の英辞郎で引くと「1. 耳たぶ」です。丸く飛び出しているものを指すようです。肺は耳たぶが右3、左2と福耳界の頂点に立つ存在と言えるでしょう。

各区域は数字が割り振られており、右上葉の肺尖区は1でrtS1と表します。rtは右で(左はltです)Sはsegmentです。区域1の気管支(bronchus)はB1、動脈(artery)はA1で静脈(vein)はV1と表記します。肺の中では気管支と肺動脈は併走し、各構造の中心を走行します。この併走する気管支と肺動脈は気管支血管束ともいわれます。肺静脈は構造の辺縁を走行しており、肺のなかを気管支血管束と交互に走行することになります。この気管支・肺動脈、肺静脈の関係は小葉、細葉に到るまで保たれています(小葉、細葉については後ほど説明します)。図は結核予防会の大大大先輩、山下英秋先生の著書から引用しています。黄色の気管支と赤の肺動脈が併走、青の肺静脈と交互に走行している様子がわかりやすいですね。

図 Yamashita Roentogenologic Anatomy of the Lung. Igakushoin

リンパ管は気管支血管束と肺静脈周囲、小葉間隔壁、胸膜に分布しています。各構造の真ん中(気管支血管束周囲)と端(肺静脈周囲、胸膜)にリンパ管が分布していることになります。つまりCTでみられる肺内の正常構造には全てリンパ管が分布していることになります。

ちなみに今回の範囲は重要なので、すべてテストに出ます。

次回は解剖つづき

初学者のための びまん性肺疾患 第3回目です!

間質性肺炎とは? の続き。。

「間質」とは実質に対する言葉です。実質は臓器の働きの中心を担う組織を指し、間質は実質以外の支持組織などを指します。肺の実質は肺胞腔と肺胞を覆う肺胞上皮細胞からなっています。ここでできるみなさんは、はたと気づくのです。肺胞腔ってなんだと。空気じゃないですかと。そうなんです。肺実質の多くは空気なんです。アマゾンの段ボールの実質が小さな商品と空気からなっていることが知られています (journal of e-commerce 2017) がそれと同じです。

肺実質のイメージ シャボン玉:薄い肺胞上皮と肺胞腔(空気)

https://www.photo-ac.com/main/detail/135758?title=しゃぼん玉75

対して、本日のメインの間質ですが、狭義には肺胞壁の上皮細胞以外の部分を指します。詳しく述べると肺胞上皮細胞がくっついている基底膜と基底膜の間の毛細血管などがある部分のことです。さらに言い換えると肺胞壁の基底膜に囲まれたスペースにあたります。

実質と間質:この構造についてはどちらが実質か間質か長らく不明であったが近年判明した。◯ッツサンドという名から実質により間質がサンドされていると証明された。

肺胞壁の走査電顕像:肺胞壁の断面の赤血球が入っているのが毛細血管、肺胞の表面に毛細血管によるうねりが確認できる。矢印の先にみえる細い線がII型肺胞上皮細胞どうしの境界。矢印:筆者

Compr Physiol 6:827-895, 2016

肺の間質は肺胞のみにあるわけではありません。気管支や血管の周囲、小葉間隔壁(小葉という構造の境:次回解説予定!)、肺を包む胸膜にも間質が存在します。前述の肺胞壁が狭義の間質と呼ばれるのに対して広義間質と呼ばれています。ちなみに間質性肺炎で障害される主要な部位は狭義の間質です。経木は私の中では美味しいものが入っているイメージです。ちなみにコーギーは犬ですし、ウコギは米沢の名物らしいです。

次回は間質性肺疾患理解のための解剖です。

初学者のための びまん性肺疾患 / 間質性肺炎診療のコツ 第2回 間質性肺炎とは?

間質性肺炎とは?

間質性肺炎とは、「炎症」と「線維化」がさまざまな組み合わせで肺実質に生じる疾患で間質を基本的な傷害の場とするものです。炎症? 線維化? 間質? 学生時代にこれらの言葉を夢の中で聞いた、あるいは学生生活が充実しすぎていて聞いた記憶がないひと向けに説明します。

「炎症」は防御と修復のための生体反応です。組織傷害が生じたときに、その原因を認識し、白血球が動員され、傷害の原因の排除が適切に制御されつつおこなわれます。それとともに炎症反応は消退、組織修復へと向かいます。怪獣、怪人と戦ったヒーロー・ヒロインが、怪獣が壊し、戦いで壊れた建物を直して去っていくイメージ。ちゃんとしてる。

「線維化」は基本的に組織修復のための反応です。傷害を受けた組織を本来は元通りに再生したいのですが、損傷がひどいなどの理由で再生できない場合に瘢痕化で代償します。以前スペインでキリストのフレスコ画をおばあちゃんがすごい感じで修復して話題になりましたがそんな感じです。その他スペインの修復の黒歴史については以下のサイトをご参照ください。(https://www.buzzfeed.com/jp/tatsunoritokushige/iyairitteru-supeinnonogayabasugiru

線維化は瘢痕化に近いのですが、慢性炎症による膠原線維(コラーゲン)をはじめとする細胞外基質の蓄積を指して使用されるようです。このあたりは臨床医の92.3%があいまいに理解しています。過剰な線維化の一例が皮膚でみられるケロイドです。

肺に線維化が生じると正常の臓器機能が果たせなくなることに加えて、肺は硬くなり容積が減少します。もともとメチャクチャ軟らかいスポンジのような臓器の肺がカッチカチになれば、ふんわり膨らまなくなり小さくなるのはわかりやすいですよね。

うまく修復できなかった結果として線維化が生じる図

間質については次回

初学者のための びまん性肺疾患 / 間質性肺炎診療のコツ 第1回

田中先生による初学者向けのシリーズです。私のびまん性肺疾患のイメージは、「男性医師」です(特にIPの話ですが)。画像や病理診断には女性の先生はいらっしゃいますが、残念ながら女子医師でIPを専門にしている方が少ない気がしています。入り口で苦手意識をもってしまうためでしょうか。是非初学者の方(勿論男性医師も)に楽しんで読んでほしいです~。

みなさん初めまして。みなさんは「びまん性肺疾患」「間質性肺炎」と聞くとなにを思い浮かべるでしょうか。

「疾患が細分化されすぎていて複雑でよくわからない!」

「専門としているひとは診断にこだわっているけれど、治療は同じでしょ。」

ごもっともな意見です。ぐうの音もでません。ですが、専門にしている人間にも言い分はあるんですよ。複雑系ほど面白い。治療も微妙に違うんです(微妙にね)。

このシリーズの目標は間質性肺炎をはじめとする びまん性肺疾患という高山を目の前にして立ちすくんでいるであろう、あなたのシェルパいや山岳ガイド、少なくとも道しるべ程度に山を登るお手伝いをすることです。立ちすくんでいなくても読むとなにかの足しになるかもしれません。10回読むとTポイントがたまるかも。では、一緒にびまん性肺疾患の山道に向かいましょう(昭和な文章はしかたない)。ちなみに私は根っからのインドア派で山登りが趣味ではないので間違っても実際の山登りに誘わないでください。

びまん性肺疾患とは?

 両肺にびまん性に陰影がみられる疾患のことですから、多くは画像をもとに「これはびまん性肺疾患であるっ!」と分類されます。画像で両肺に広く変化がみられるものであれば原因は何でもありです。腫瘍も感染症も心原性肺水腫も含みます。びまん性肺疾患の専門家は全員、すべての疾患は びまんに通ず、びまんこそ最上位といいたいのですが、そこはグッとこらえて心のなかにしまっています(当社調べ)。

表 びまん性肺疾患 

山脈(疾患のグループ)と個々の山々(疾患)。山多すぎ。

(日本呼吸器学会 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き 改定第3版)

まず疾患のグループを眺めてみてはどうでしょうか。東の横綱が腫瘍性、西の横綱が特発性間質性肺炎です。わからないひとは「番付」で画像検索してください。